つついた先に見えたダンゴムシの真実
ある日、除草作業の休憩中、ふと地面に目をやると、目の前にダンゴムシが現れた。
なぜだか、子供の頃のように、つついてみたくなってしまったのである。
さっそく小枝を拾って、ダンゴムシを軽くつついてみると、約束通り丸まってくれた。
やっぱりこの反応が楽しい。
まるで自分の中に、何かがまだ子供のまま残っているような感覚になった。
そして、そんなのんびりした気持ちでいると、ふと疑問が湧いてきた。
ダンゴムシって、あの幼虫みたいな姿で、これで完成形なんだろうか?とか、 それとも、これから何かに変身する途中なのか?とか、 昆虫だったら、いったんサナギになって羽化して……みたいな段階があるけれど、ダンゴムシにもそういう過程があるんだろうか?とかって……。
そういえば、子供の頃は毛虫を見つけるたびに「これはチョウになるのか、ガになるのか?」と不思議だった。
あの毛だらけのやつ、なんだか毒がありそうで近づきたくないけれど、意外とあれがガの幼虫だったりする。
ガの毛虫ってフサフサしてて、見た目も少し怖い。
一方で、チョウになる毛虫って、ツルツルだったりスベスベだったりする。
あの違いは子供心に不思議で、当時は「毛深いやつは危険」みたいなイメージを勝手に持っていた。
そんな毛虫たちと同じように、ダンゴムシも何かに変身するのかな?、それとも、このまま丸まって生きていくタイプなのか?……。
さらには、なぜか「風の谷のナウシカ」の王蟲(オーム)を思い出してしまった。
あの巨大で迫力のある王蟲、見た目は完全に巨大ダンゴムシじゃないか……と思っていたけれど、あれのモデルって本当にダンゴムシなのかな?……。
そんな疑問が次々と浮かんできて、休憩時間中に脳内がちょっとした昆虫図鑑みたいになっていた。
どうしても気になったので、スマホで調べてみることにした。
まず、ダンゴムシ。
名前に「ムシ」とあるけれど、実は昆虫じゃなくて、エビやカニの仲間らしい。
「甲殻類」という分類で、海にいた生き物が進化して陸に上がってきたということだ。
……恥ずかしながら、今まで完全に虫の一種だと思っていた。
で、成長のしかたも昆虫とはまったく違う。
チョウやガのように「完全変態」――つまり、卵→幼虫→サナギ→成虫という劇的な変身はしない。
代わりに、脱皮を繰り返して少しずつ大きくなっていく。
つまり、あの丸くてコロンとした姿が、「大人の姿」そのものなんだとか。
サナギなんて存在しないし、羽もはえない。
たしかに、そう考えると、毛虫たちの変身ってすごいよね。
あんなにも見た目が違う生き物が、静かに変身して、羽ばたくんだから。
幼虫がサナギになって、気づいたら美しいアゲハチョウとかになるのって、本当に生物って不思議だと思う。
一方でダンゴムシは、一見地味だけど、脱皮を繰り返して成長していくという、また別の静かなドラマがある。
しかも、脱皮のときは体の前半と後半を分けて順番に脱いでいくらしい……地味にすごい。
で、王蟲のモデルについても調べてみた。
見た目が似ているから「ダンゴムシかな?」と思っていたけれど、実際には三葉虫とか、モスラの幼虫(つまりガの幼虫)がモデルになっているという説が強いらしい。
ダンゴムシという情報は見つからなかった。
……でも、あの硬そうな外骨格といい、脚がずらっと並んでいるところといい、やっぱり似てると思うんだけどなあ。
それから、「ダンゴムシ」という名前についても気になって調べてみたところ、正式名称は「オカダンゴムシ」というらしい。
やっぱり、そういう名前だったんだ……。
でも、見た目も機能もわりとメカニカルで、「虫」というより「小さな装甲戦車」って感じなのに、名前が「ダンゴムシ」ってちょっとかわいすぎる気がしてきた。
なので、勝手に「マイクロ王蟲(おうむ)」というあだ名をつけてみることにした。
なんか、その方がかっこいい気がする。
ちなみに、ダンゴムシにそっくりだけど、つついても丸くならない「ワラジムシ」という生き物もいるらしい。
そういえば、子供の頃に「なんでこいつは丸まらないんだよ〜」とつつき続けていたやつがいたけど、あれはたぶんワラジムシだったのかもしれない。
当時は、やる気がなくて丸まらないんだと思っていたけど、そもそも構造が違ったんだな。
……なんてことを考えていたら、いつの間にか休憩時間が終わっていた。
ただダンゴムシをつついただけなのに、なんだか世界がちょっと広がったような、不思議な午後だった。
イラスト よーよー
投稿:2022.8.10 水曜日